遺伝子組み換え食品

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備忘録かねて、後期授業(Biobusiness)の最終課題に関する内容をまたまた記載します。3000 wordsのエッセイで、「なぜ遺伝子組み換え大豆は生産拡大の観点から成功したのか?」というお題です。


ちなにみこちらのお題は、特定のバイオ製品を選んで、その成功or失敗を考察しろというお題でした。

遺伝子組み換え食品

そもそも遺伝子組み換え食品とは?WHOは自然では起こりえない方法で、遺伝子が変更された動植物からうまれた食品を、遺伝子組み換え食品(Genetically modified foods)と定義しています。


一例として、Bacillus thuringiensisという細菌から、毒を生成する遺伝子を人為的に植物に組み込みます。これにより、虫がこの植物を食べると毒によって死んでしまいます。一方で、人間にとってこの毒は影響がありません。このような技術によって、農業が大きく変わりました。

広がり

1944年、Averyたちによって遺伝子が他種への組み込みが可能と判明しました。また、1953年にはDNAの構造がワトソンとクリックによって判明します。1983年には初の遺伝子組み換え植物となる、タバコが研究室で誕生。


1990年代初頭には、中国が遺伝子組み換え作物(タバコ)に対して、世界で初めて商業化の認可を下しました。1994年にはアメリカも通常より日持ちのよいトマトの商業化を認め、翌年には大豆を含め数種類の遺伝子組み換え食品の商業化を認めました。(このあたりの過程はBawa & Anilakumarの論文参照)


ただ、現状での広がりはかなり偏りがあります。まずは以下の遺伝子組み換え作物に関するグラフ↓(縦軸はMillion ヘクタール&ISAAA Brief 53-2017

このように、大豆・メイズ・コットン・カノラ(アブラナ:油菜)が1996年ごろから耕地面積を伸ばしています。そして、2017年、世界の遺伝子組み換え作物の耕地面積はこの4種で99%を占めます。


また、大豆に関しては2017年、世界の大豆耕地面積の77%が遺伝子組み換え種であり、残りの23%が遺伝子組み換えでない種でした。遺伝子組み換え大豆は、生産拡大の観点からは成功していると言え、その要因を検証しました。

Monsanto

まず初めに、遺伝子組み換え食品は、大豆含め多くがMonsanto社によるものが多いです。(※2018年Bayerが買収)「モンサント-世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業(↓)」では、2005年において、世界の約90%の遺伝子組み換え製品の特許をこの会社が握っていたとされます。


こちらの会社はもともと除草剤(Roundup)という製品が好調でした。(ベトナム戦争における枯葉剤の製造にも関わっていました。)そして、遺伝子組み換え作物として、この除草剤に耐性のある作物(Roundup-ready)を開発。このセット販売で莫大な利益をあげたとされます。


かつ、こちらの会社、特許にもとづき、農家は種を再利用したり売ることが認められず、都度この会社から種を買う必要があります。このようなMonsantoにとって有利な戦略で遺伝子組み換え作物を拡大し、伴って遺伝子組み換え大豆も広がりました。

除草剤・害虫耐性

BrookesとBarfootのレポートにおいては、除草剤に耐性をもつor除草剤と害虫への耐性をもつ遺伝子組み換え大豆が、除草作業や害虫駆除の作業の効率をあげ&生産コストを低下し、生産が拡大したと述べられています。


一例として、2016年、世界において除草剤耐性の遺伝子組み換え大豆により、約4800億円の農業収入が上昇したとされます。


つまり、遺伝子組み換えによる優れた性質がその拡大を促進したと考えられます。

アルゼンチン

2017年、遺伝子組み換え大豆の耕地面積はアメリカが世界一(約3400万ヘクタール)。続いてブラジル(約3370万)、アルゼンチン(約1810万)と続きます。(ISAAA Brief 53-2017


アルゼンチンは特筆すべき事例が多いです。というのも、1991年のMenem政権誕生より、グローバルな商業化が促進されます。これにより、世界の農業に関するテクノロジーの輸入が増え、農業レベルが向上しました。


特に、この国においては、前述したMonsantoが自社の遺伝子組み換え作物の特許を取ることができず、他国に比べて安価にその種が流通しました。 これはアルゼンチンの農家自身に作物を発展させる機会を与えようとする法律によって特許がとれなかったとされます。


加えて、ブラジルやポルトガルから種の違法な輸入。更には、遺伝子組み換え大豆の商業的な見込みの高さから、富裕層や権力者が暴力も時には利用し、地元民の土地を不正に奪い、耕地面積を拡大しました。

食料需要

世界銀行によると、1990年の世界人口は約53億人でしたが、増え続け、2018年は約76億人とされています。人口増加による食料需要の増加に加え、世界的な収入向上により、肉類を含む栄養価の高い食事や、一回当たりの食事量が増えたと 欧州委員会は 報告しています。


遺伝子組み換え大豆は、そのまま食料と使う場合もあれば、植物性油としての消費や、家畜への飼料にも用いられます。特にアジアでの家畜への消費は30年間増加し続けており、供給増加にみあった需要増加がこの大豆の拡大要因になっていると考えられます。

課題

一方で、課題も多くあります。まず、Monsantoの戦略は独占的であるとされ、前述した本においても基本的に批判的な態度が貫かれています。


また、アルゼンチンにおける強行的な耕地拡大は、暴力や不正はもちろん、森林伐採にともなう環境破壊や、大規模な農薬散布による健康被害が指摘されています。


遺伝子組み換え大豆においても、自然には起こりえない方法で遺伝子が組み込まれているため、健康リスクの懸念があります。このような懸念のため、2017年においては、遺伝子組み換え作物の耕作を認めている国は24か国だけです。なお、耕作は認めていないが、飼料や食料として流通・消費することは64か国で認められています。


※日本においては2018年において、遺伝子組み換え作物の栽培は認められておらず、観賞用のバラのみ認可されています。流通面ではじゃがいも、大豆、てんさい、とうもろこし、なたね、わた、アルファルファ、パパイヤの8品目が認められています。(消費社庁

結論

遺伝子組み換え大豆は、「Monsantoの独占的な戦略」「遺伝子組み換えによる除草剤・害虫耐性といった優れた特性」「アルゼンチンにおける政策や法律だけでなく、不正な側面も加わった大豆産業の促進」「食料需要の高まり」によって生産が拡大。


一方で、環境面や健康面でのリスクは課題としてあり、社会的な容認に成功しているとはいえない状況。なのかなとざっくりした内容ですがエッセイとして記載して提出しました。

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