お金による社会性の腐敗?

留学生活

備忘録かねて、後期授業の最終課題に関する内容をまた記載します。3500 wordsのエッセイで、「お金は社会性を腐敗させるテクノロジーか否か(a socially corrosive technology)?その理由は?」というお題です。


ちなみにこの授業ではお題がいくつか与えられ、私はこれを選びました。

授業

Consumption, Exchange, Technology: The Anthropology of Economic Processesという、人類学のなかでも経済より(経済人類学)の内容を中心とした授業でした。


証券会社に勤め、寄付や社会的投資に関わるNPOに携わり、ビットコインなんかも大好きな身としてはすごく面白い授業でした。

貨幣の起源

紀元前に生きた、アリストテレスのニコマコス倫理学においても、貨幣に関しては言及されています。ここでは、物々交換は面倒で、共通の1つの尺度があった方が便利という理由で、貨幣がうまれたと述べています。


こういった、物々交換のなかから貨幣がうまれたと主張する人物で有名なのがマルクスです。私の場合、貝殻とかが物々交換を媒介し、貨幣に発展したと小・中学くらいで習った記憶があります。そして、このような貨幣の起源を商品貨幣論と言います。


一方で、信用貨幣論という説があります。こちらは、物々交換が頻繁に行われていた記録はあまりなく、実際は借用証書のようなものが貨幣の起源とする主張です。


つまり、AさんがBさんに何かをあげ、同時に負債が発生します。その証書がめぐり、貨幣の起源となったという説です。実際に、5000年ほど前のメソポタミア文明において、借入の記録が刻まれていたことが確認されています。(こちらの説で有名な本:↓)

贈与と貨幣経済

ものに値段をつけずに、贈与経済で社会をまわす場合があります。(贈与に関してはモーセの贈与論↓が有名)この本の中では、NZのある部族において、贈与はあげた人の魂が宿っており、モノが異なっても何かお礼をしてその魂を返すべきだとする話があります。


こういった内容は他の贈与経済でもみられ、経済的な意味合いだけでなく、宗教や文化的背景などが盛り込まれており、モーセは贈与を社会的な現象と主張します。ではこういった文化は貨幣では生じないのか?


はい、あります。事例としてはROSCAs(Rotating savings and credit association)があります。これは地域のグループメンバーが少額のお金を毎回出して、集まった資金を特定のメンバーに渡す仕組みです。いずれ全員受け取る機会があるため、ROSCAsは初期にお金を受け取った人には返済を、後に受け取る人には貯金を促す仕組みとなります。


このような仕組みは世界各地で見られ、日本では昔、頼母子講(たのもしこう)として、青年海外協力隊としてマラウイにいたときはCOMSIP(Community Savings and Investment Promotion)として似た事例があります。


メンバーからの資金は既存の金融機関とは異なる意味合いが組み込まれていると捉えられ、銀行などを利用できる環境でも、並立してこの取組みが確認されます。また、取り組みを通じて、メンバーの責任感や義務感、相互扶助の意識が養われるといわれています。つまり、貨幣が社会性の観点から好ましい存在となっています。

負の側面

もちろん、貨幣の負の側面は色々指摘されています。有名な本だと、「これからの正義の話をしよう」で日本でも有名になったサンデル教授による、「それをお金で買いますか?↓」があります。


一例として、大切なものが値段が付くことによって正当な評価がされず、品位を失う懸念を示しています。最も顕著な例が奴隷市場です。また、ティトマス(The gift relationship↓)は以前のアメリカとイギリスの献血システムを比較し、ボランティアから血を集めるイギリスシステムの方が、血を買って集めよとしたアメリカに比べて成功した事例を紹介しています。


この場合、アメリカでは不純物が混じった血液や、血液の不足が問題となりました。そのため著者は、社会性のある取り組みが貨幣を通じて商業化することで、利他精神が抑えられ、コミュニティ意識が蝕まると主張します。

正の側面

個人的に、貨幣はa socially corrosive technologyではなく、むしろa socially favourable technologyだ!と考えていました。


というも、サピエンス全史(↓)の「貨幣は寛容性の極み」という考えにめっちゃ同意しているからです。著者は異なる神や王に仕えていても、貨幣のルールには共通にみな従うと述べます。これは、貨幣の高い寛容性と適応性(tolerance and adaptability)に基づきます。つまり、貨幣が共通の基準として、国の法律や宗教、社会慣習の違いを越えて人々を繋ぎ、協力することを可能にさせます。加えて、貨幣は性別や人種、年齢などに基づいて差別をすることはありません。


そのため、著者は貨幣は人類史上、最も普遍的で効率的な相互信頼のシステムであると述べています。(めっちゃ賛成!)似たような主張は人類学者からもされており、貨幣やファイナンスの概念が植民地化や資本主義の広がりに伴って普及し、共通の基準として機能し、結果的に世界中が協力しやすくなったと述べています。(The Anthropology of Money and Finance


また、最近ではモバイルマネーやビットコインといった、オンライン上での貨幣があります。Money at the Margins(↓)のなかでは、KenyaにおけるM-PESAという電子マネーが、送金のやり取りを通じて友人や家族をサポートしたり、コミュニケーションをとる機会が増えたことが報告されています。

また、ビットコインにおいても、暗号技術に基づき、第三者機関を経ずに送金不正を防ぐといった、オンライン取引の新しい信用のかたちを形成していると主張している論文もあります。


エッセイとしては、お金は社会性を腐敗させる一面は確かにあるが、好ましい効果のほうが大きく、むしろ社会性に好ましいテクノロジーであると結論づけています。


ビットコインはじめ、暗号通貨はなんだかんだ投機的な存在にしかなりえないのかなーと感じつつも、貨幣や信用の在り方は今後ますます変化が激しくなりそうで楽しみです!


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